シュールの効用

シュールの可能性を追求するブログ

205 稀有書 81 騒音のなかの集中

f:id:danbuer:20210704221050j:plain

碁盤に向き合うジョッシュ・ウェイツキン

 何らかの事物に集中して取り組んでいる最中に、突然何かが起こったとする。その瞬間にどういうリアクションをするかは、心理状態によって違ってくる。たとえば、気を散らされまいと神経質になっていたとしたら、そのときの心理状態は、緊張状態にあるといえる。
 しかしチェスの名人のこの作者ジョッシュ・ウェイツキン(映画『ボビー・フィシャーを探して』は、幼年の頃のジョッシュを描いたもの)は、騒音のなかにあっても集中力を切らせないためには、訓練が必要であると説く。なぜなら、チェスの試合では、相手の気持ちをいらいらさせるために、わざと机をコツコツ叩くというテクニックが普通に用いられているからという。
●騒音でも集中出来るための訓練
 頭の中で雷のように鳴り響くどうしょうもない騒音問題に苦しんでいた彼は、ある日、打開策が思い浮かんだ。この出来事を契機に、騒音問題に立ち向かおうと決めた彼は、より弾力性のある集中力を養う訓練を始めた。唯一残された道は、騒音のなかでも平静を保つしかないことに気がついたのだ。それから彼は、一週間に数日ぺースで、自分の部屋で音楽を大音量で流しながらチェスを勉強した。(71p)
 そして彼は、この訓練の成果を試合の場面で生かすことができたが、彼の探求はさらに先を行くことになる。
 「最終的に、この手のシチュエーションへの対処法は自分の感情を否定するのではなく、むしろその感情をアドバンテージとして利用することにあるのではないかと考えるようになった。自分を押え込むのではなく、その時の気分にピッタリと周波数を合わせることで集中力を高めなければならない。」(75p)
資料 ジョッシュ・ウェイツキン著『習得への情熱ーチェスから武術へ』みすず書房 (2015)