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180 稀有書 56 戦争の心理学

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デーヴ・グロスマン「戦争の心理学」英語版(2012)

 近代戦争の歴史は、武器の開発の歴史であるとともに、敵を倒す訓練の変遷の歴史でもあった。平和な生活を営む人間には、人を殺すように教育されてはいない。そのため、敵を殺すことが出来る人間に「改造」しなければ、武器が進化しても引き金を引かなければ勝てないのである。そしてアメリカはそれには成功した。
 こうしたことをテーマにしたのが、デーヴ・グロスマンの『戦争における「人殺し」の心理学』(原題「オン・キリング」(1995)である。
●発砲率の増大
 第二次世界大戦での戦闘行為での(敵に対する)発砲率を20%から朝鮮戦争の55%、ベトナム戦争ではおよそ95%まで上昇させた。(これは戦死した兵士の銃を調査して、銃から弾薬が発射された割合を示した割合を指す)
 この精神的訓練の最も劇的な例は、1982年のフォークランド紛争のトレーニングがある。これで条件づけられた英国の軍隊は、アルゼンチン軍の発砲率(30%)に対して、3倍の90%以上の発砲率を示したのである。そして作者は、1990年頃「暴力的なテレビゲームを通じて大規模なオペラント条件付けが始まり、国内の暴力犯罪で大量殺人が可能となる」と記述している。
 その後彼は、『戦争の心理学』(原題「オン・コンバット」(2004)で、この戦闘状態のストレスとその対処法を扱った。戦場から戻った兵士の精神的後遺症が多くなったためである。
資料 
・デーヴ・グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』筑摩書房 (2004)
Dave Grossman On Killing: The Psychological Cost of Learning to Kill in War and Society, Open Road Media(2014版)
・デーヴ・グロスマン『戦争の心理学』二見書房(2008)
Lt. Col Dave Grossman with Loren W. Christensen ON COMBAT, The Psychology and Physiology of Deadly Conflict in War and in Peace, Human Factor Research Group, Inc. Publications(2012版)