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178 稀有書  54 ヒトラーの美意識

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『ナチス狂気の内幕』英語版

 アルベルト・シュペーア(1905-1981)は、ヒトラーに評価され、ヒトラーのために、ベルリンの再開発計画に関与した。軍需大臣を務め、戦後ニュルンベルク裁判で禁固20年の刑に処された。
 彼はヒトラーと親しかった人物として知られ、彼が獄中で書いた回想録『ナチス狂気の内幕』(1969)に、ヒトラーと長年接した者による多くの事柄が記されている。以下は同書からの抜粋。
 なお彼の著書はもう一冊あり、「スパンドウ日記」(1976)として出版されている。
●ヒトラーの古代ギリシャ信仰
 ローゼンベルクは七百ページにもおよぶ『二十世紀の神話』を数十万部売った。この本は世間では党イデオロギーの教科書と思われたが、とヒトラーは例のティーパーティーでこれを、「ものをおそろしく複雑に考える額の狭いバルト人が書いた、だれにもわからないしろもの」と一口で片づけた。
 そんな本がどうして売れたのかとあきれて、こういった。「中世的観念への後戻りだ!」。この個人的ヒトラーにとっては、ギリシャ文化がすべての領域での最高の価値であった。たとえば建築にあらわれているギリシャ人のの生活観は「さわやかで、健康」であると。ある日のこと、一枚の美しい女性水泳選手の写真が、彼を陶酔的な瞑想に誘った。「なんというすばらしい肉体が今日でもあるのだ。二十世紀になってはじめて青年はスポーツによってこれまで何世紀も、肉体が蔑視された。その点で我々の時代は古代以後のどの文化時代とも異なる」。しかし自分ではスポーツを遠ざけた。彼が若いころになにかスポーツをやったなどとは一度も聞いたことがなかった。(110p)
●告白
 自分がどんなにあぶない綱渡りをしているかを、ヒトラーは、1936年11月にオーバーザルツプルクでファウルハーベル枢機卿と、長々と会談したとき、いやというほど思い知らされたに違いない。会談後、ヒトラーは私と二人きりで、夕暮れの食堂の窓ぎわにすわっていた。彼はしばらく黙って窓外を見つめたあと感慨深げにいった。
「私には二つの可能性がある。私の計画を完全に実現するか、完全に失敗するかだ。やり抜いたら私いは歴史上の大人物の一人になる。失敗したら、私は裁かれ、捨てられ、そして地獄へ落とされる」(115p)
資料 アルバート・シュペール著、品田豊治訳 『ナチス狂気の内幕 -- シュペールの回想録』 読売新聞社 1970年