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173 稀有書  49 金持ちの奇妙な遺言

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デミドフ伯爵夫人

書名 アラン・モネスティエ著「伝説の大富豪たち」(Les milliardaires de legend)
●デミドフ伯爵夫人
 ロシアの実業家で外交官のニコラス・デミドフ(1773 - 1828)はパリに家を構え、ナポレオン1世の強力な支持者となった。しかしフランスとロシアの間の緊張が高まり、1805年にロシアはニコラスを呼び戻すことを余儀なくされ、1812年モスクワに定住。
 一方デミドフ伯爵夫人(1779-1818)は美しく、軽くて機知に富むが、夫はとても内省的だったので、彼らはすぐにお互いに飽きてしまう。1812年にアナトールが誕生すると、2人は別れ彼女はパリに戻った。6年後、彼女は1818 年に亡くなり、ペール・ラシェーズ墓地に莫大な費用をかけて霊廟を作った。動物学者イレール(1805 - 1861)の墓の近くにある彼女の霊廟は、今も見ることができる。それはパルテノン形で、六本の白の大理石の柱があり、墓碑を飾る石細工の布裳模様にシベリア狼の頭部が飾られている。
 彼女の残した遺言が、1896年11月2日付の新聞『ル・タン』に公開された。それには、彼女があの世でひとりぼっちになってしまうことを恐れ、夫人の付添いとして365日、昼も夜もともに地下墓所で過ごしでくれる殊勝な人に、200万ルーブルを遺贈しようというのだ。ただし志願者は食事はもちろん、訪問者を迎えることもできるが、霊廟から出ることはできない、と記されていたという。管財人はいまなお応募の手紙を受け取っているそうだが、いまだに志願者は決まっていないとのことだ。(「伝説の大富豪たち」1992 JICC出版局 274p)