シュールの効用

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215 稀有書 91 飛行船ヒンデンブルク号見学

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飛行船LZ129(写真deviantart.com)

 日本人新聞記者の大塚虎雄が、第2次大戦前夜のドイツを訪れ、その時の取材を『ナチ独逸を往く』(1936)に記録している。記事には、大空の豪華飛行船LZ129の設計者フーゴー・エッケナー博士(1868 – 1954)に面会して、インタビューした様子がある。
 訪れた先は、南ドイツのスイスとオーストリヤとの国境に挟まれたフリードリツヒスハーフエン。博士はツェッペリン伯の片腕として飛行船の設計にかかわり、伯の没後はその後継者となったのである。
 格納庫にある製造中の飛行船LZ129は、全長248メートル、直径41.2メートルという大きさ。定員50人の旅客の寝室、それを挟んだ両側に食堂と喫煙室、読書室、さらにその両側に展望窓をもった散歩道迄設置されている。完成後は、1936年の春には試験飛行をし、3月には南米航路に就航する予定と云う。
 問 飛行船による事業の企業的価値はありますか?
 答 ある、政府の補助金なしに採算可能だ。
 問 日満合弁の航空会社が出来て、東京と新京間に定期の無着陸航空路を開設するという話があったが、日本から購入の申し込みがあったら売りますか?
 答 よろこんで売ります、他の国ならいざ知らず、政府の方も異存はあるまい。値段は一隻650万マルクなおら売ってよい。
 問 LZ129号は軍事的には如何?
 答 純然たる民間の営利会社で軍部と関係はない。我々の飛行船は大空の豪華船であって、戦争には適しない。
●大火災
 LZ129号ヒンデンブルク号は、この本の出版の翌年の1937年5月6日アメリカのレイクハースト飛行場に着陸作業中、火災を起こし墜落。これにより、ツェッペリン飛行船の定期旅客航路の運航は中止。ツェッペリン社は惨事の数年後には活動を停止した。
  出典 大塚虎雄『ナチ独逸を往く』亜里書店(1936)