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170 稀有書  46 グノーシスとユング

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ショーン・マーチン著「グノーシス」

The Gnostics The First Christian Heretics by SEAN MARTIN, POCKET ESSENTIALS 2006

本書の6章「グノーシスの影響と遺産」に、グノーシスの思想に影響を受けたユングの思想が短くまとめられている。その趣旨を以下にまとめた。

●グノーシスのユング
 カール・グスタフ・ユング(1875 - 1961)は幼い頃から宗教問題に興味を持っていた。1912年にキリスト教異端として位置するグノーシス主義に興味を持ち、精神分析の媒体を通じてグノーシス主義のソフィアの概念が西洋の意識に再び入りこむとする彼の信念を概説した手紙をフロイト(1856 – 1939)に書いている。
フロイトはユングの熱意を共有せず、2人は1914年に関係を打ち切った。フロイトとの決別から2年後、ユングは自分の人生を変えるという個人的な危機を経験した。これは明らかにグノーシス主義的な性格の経験といえる。
 1916年、ユングの人生が停滞していた最中、ポルターガイスト現象が発生した。4日目の終わりに、ユングは言った。「 驚いた、これはいったい何なのか?」合唱の声ですぐに応答があった。「私たちはエルサレムから戻ってきたが、求めていたものは見つからなかった。」ユングはすぐに書き始めた。次の3晩で彼は「死者への七つの説教」を完成させた。 それは散文詩の形をとり、7つの説教の作者をバシレイデース(AD85-145?)に帰した。
 その後ユングは、その作品を「若々しい無分別」であるとし、彼の生涯でそれを出版すること断念した。 彼はおそらく、その仕事が敵意を呼び起こすことを警戒していた。説教の写しが、マルティン・ブーバー(1878-1965)の手に渡ったとき、ユングを異端者であると非難した。
又、ヘルベルト・シルベラー(1882– 1923) が錬金術の本を出版して、師のフロイトに見せ、フロイトはその作品を完全に却下したことも影響した。
●「死者への七つの説教」
 7つの説教の最初の説教は、バシレイデースが死者にプレローマの存在を知らせているところから始まる。「 プレローマには、私たちが反対の一対として見る性質が含まれている。 満腹と空虚、生と死、違いと同一性、光と闇、善と悪、美と醜、1と多」。 プレローマは私たちの中に存在するが、同時にこれら反対の一対も含まれている。
しかし、「善と美を求めて努力するとき、私たちの本質である差別化を忘れてしまう」問題が生じている。
 私たちが善と美を求めて努力するとき、同時に悪と醜いものにも立ち向かう。なぜなら、反対もそれに密接に関連しているからである。
片方はもう片方なしで維持することはできない。 解決策は、「反対側のそれぞれから離れている自分自身を知ることによって、救いに到達する」。
 「自分自身を知るには、反対者が互いに自由に関わることことを学ばなければならない。私たち自身がそれらから距離を保つことで、最終的に問題の解決につながるのだ。」
 これが、ユングが彼の心理学の基礎となった、個性化のプロセスと呼ばれるものの本質である。
「死者への7つの説教」は、ユングの死から2年後の1963年まで出版されなかったが、彼は生涯を通じてグノーシス主義が彼の作品に与えた影響を認めた。