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158 稀有書 34 「愛人百科」

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トニー・ヴォルフ(Memoir of Toni Wolffより)

   ドーン・ソーヴァの『愛人百科』(文春文庫1996)は、世界の著名人の愛人の生き様をまとめた作品である。時代の英雄?を影で支えた女性を知ることで、より本人が理解できると思える。以下はそのなかからユングの愛人のトニー・ヴォルフの項目の抜粋。

 トニー・ヴォルフ(1888– 1953)は、1910年に父親の死の落ち込みから、患者として心理学者カール・ユング(1875 - 1961)に接し、その後愛人として、また同僚として、43年間彼のそばで暮らした。優雅で貴族的な容貌のトニーは、1903年にユングと結婚した妻のエンマとは、きわめて対照的だった。
●患者から愛情関係へ
 ユングの治療が終わったあと、ユングは手紙でトニーに知的協力者になってほしいと頼んだ。そして二人の関係が密接になると、ユングは結婚生活とトニーの両方を維持するるために努力を続けた。妻の反対があったが、ユングはトニーを家族の友人として受け入れるよう説得した。
 1913年にユングは神経衰弱の寸前までいくが、今度はトニーがユングをささえ、彼が自分の感情を探るのを手助けし、また男性としての彼の抑圧された女性的特性”アニマ”の探究と理解を助けた。後年ユングは、エンマは自分のインスピレーションの源泉であり、自分の生活のささえだったと語っている。
 こうしてトニーとエンマとユングは40年近く3人で暮らし、その間2人の女性はともに専門家として精神分析に携わるようになった。
●決裂 
 1940年代も終わるころ、トニーはユングに、妻と離婚して自分と結婚してほしいと要求した。ユングはエンマと別れることを拒み、トニーにもとどおりの生活に戻ってほしいと頼んだが、トニーはこれを拒絶した。トニー・ヴォルフは分析家としては成功したが、孤独の生活に耐えられず、1953年に64歳で亡くなった。