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156 稀有書 32 猫と仏教

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著者上原虎重氏「猫の歴史」より

「大阪毎日新聞」の記者だった上原虎重(1890-1952)の書いた「猫の歴史」に、猫が野生から飼い猫となった時期は、慶雲2年(705年)以前と推測している。以下はその記事の趣旨。

 仏教と猫の関係は極めて密接であったが、同時にそれは皮肉なものでもあった。現に「涅槃(ねはん)経」には「比丘(仏教信者)は牛羊象鶏猪と猫を飼うべからず」とあり、仏教理論書の「薩婆多論」には「犬を養うのは良い」とある。
 しかし仏教にも猫が必要である理由があった。猫は鼠の害から護る役割があるのである。「日本釋名」に「むかし相模国の金沢称名寺の文庫に書を多く納めていた。唐から多くを運ぶ時、ねずみの害を防ぐためによき猫をのせて来た。」とある通り、猫は金沢文庫の護衛にも当ったのである。金沢文庫ができた北條時代になっても、相変わらず中国(宋) から猫が輸入されていたことである。

●『日本霊異記』の話 
 作者は本の追記として、日本史のなかの猫の歴史を調べて、『日本霊異記』にある記述をみつけた。それは、豊前国宮子郡の少領膳臣広国(かしわでのおみ)なる者が、慶雲2年(705年)9月に閻魔(えんま)王の廰に召され、亡き両親にあった後、再び蘇生して、子どもに一部始終を語ったという筋である 
 蘇生した父が息子に語ったのは、「自分はこれまで多くの罪を犯したので、獄吏による毎日様々な刑罰を受けている。そこでは毎日食うものに事欠き、飢えで苦しんでいる。正月一日、狸(猫のことらしい)になって家に戻るので、その時には百種の料理で自分をもてなして欲しい。これでしばしの飢えをしのぎたい」というものであった。
 この狸は野生の猫なのか、飼い猫なのかは記してはいないが、「ご馳走を提供せよ」というのだから、これは当時すでに飼い猫の習慣があったことをしるしているという。これにより、飼い猫の時代は、文武天皇の時代迄遡ることが出来たという。
 資料 「猫の歴史」上原虎重 創元社 1954