シュールの効用

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155 稀有書 31 日本に来た象

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ムハンマド・シャーの前の中庭で戦う2頭の象

 本の著者は、上野動物園で動物を相手に40年の間、世話をしてきた。昭和7年(1932)に退職されたというから明治25年(1892)頃からそこで働いて来たと思われる。この本のなかで彼は、凶暴な象について記述している。以下はそのときの体験談。

 明治21年にメス象とともに2頭のアジア象がタイの皇帝から日本に寄贈されてきた。象に付き添って来た中国人が帰国したため、受け入れ先の上野動物園では、日本人だけで飼育する事になった。メス象は明治26年に死亡、オス像は凶暴なため、係員も飼育に手を焼いていたので、マレー人の象の飼育のプロを雇う事になった。
 明治26年(1893)の春に彼がやってきたが、半年してもうまく飼育ができないので、彼に聞いてみると、現地の象はもっとおとなしかったと言うだけで解決策はない。そのうちそのマレー人も国に帰ってしまった。
 そこで日本にいるタイの駐在大使に聞いてみると、百頭に一頭は凶暴な象がいる。飼育ができないなら放逐するか、銃殺もやむをえないという。そのうち象も、明治30年(1897) 頃になるとやっと日本の気候にも馴れ、室内の暖炉も廃止できるようになったという。

 本の著者は獣の治療もしていたので、この象にも治療を施した。どうやら前のマレー人の飼育係が、象の足に鉄製の制御具をつけ、それが脚部に食い込んでいたが、飼育係はそれをはずさないまま国帰ったようである。園ではどうにかしてこの制御具を外したのだが、傷口がとてもいたそうである。ただし獣医である著者が治療している間はおとなしくしているのだ。彼はそうした象の心の動きに感心しているところが面白い。
書籍名 黒田義太郎著『動物談叢』改造社発行 1934年