シュールの効用

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142 稀有書 18 マクルーハンの思考

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「マクルーハン書簡」(オックスフォード1987) 表紙より 

 「メディアはメッセージである」というスローガンで有名なトロント大学教授マーシャル・マクルーハン(1911-1980)。私は彼の考え方に驚きを持って受け止めた一人であった。コンテンツよりも、メディアそのものが人間の意識を拡張するという発想は、携帯、インターネットなどのメディアを考えると、ますます現実味をおびてきている。彼は、フランスの雑誌「エクスプレス」での対談で、彼の研究方法を次のように語っている。

●結果から原因へ
 マクルーハン「私はあることがなされた場合、まずそこでなにが起こっているかを研究するのです。
 大部分の人びとは、子どもたちがテレビで暴力行為を見ると、子どもたちがどうなるかということを考えるわけです。私はどうかと申しますと、私はそういうことにはいっこうに注意をはらいません。
 私が研究するのは、人びとがなにゆえに暴力を必要とするのかということであって、それはテレビの番組とは関係のないことです。
 私はものごとを結果から原因へさかのぼりながら研究します。われわれが普通やるように原因から結果に進みながらではありません。われわれの知的習慣の逆をゆくわけです」

記者「なぜそういうやりかたをなさるのですか。」

 マクルーハン「ひとつの過程の巻きかたを逆にしてみると、その構造、その図式がはっきりするからです。ところが番組の放送やその受信を研究したところで、送る側からのメッセージや見る側に与える影響の図式は出てこないのです。
 こういうことを私に教えてくれたのは広告なのです。当然のことながら広告業界では、まず宣伝文句をつくることからはじめるのではなくて、つくりだしたいと思う効果を研究することからはじめます。原因は結果を見つけだしてからつくられるわけです。これと同様に経営問題を解決しようとする場合にも、その問題に関して知らないことからはじめるのでして、知っていることからはじめるのではないのです。(…)
 私の言わんとすることは、私は魚がなにをするかを研究するのではなく、魚の環境、魚の周囲を研究するにすぎないということなのです。」(「現代との対話1」早川書房1978年 より)