シュールの効用

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(47) シュールな鳥葬 

河口 慧海(えかい 1866-1945)は、日本人で初めてチベットに入った人物として知られている。その模様は彼の『チベット旅行記』に詳しい。なかに「鳥葬」の場面があるが、最近はチベットにも近代的な火葬場が出来、鳥葬も取材が禁止されているという。

「チベットの鳥葬は仏法の方では風葬と云うもので、チベットでは遺体を禿鷲に食わせるのが一番良い葬法としている。

墓場をとりまく山の上、あるいは岩の先には怖ろしい眼つきをした坊主鷲が沢山おり、それらは人の死骸が運ばれて来るのを待っている。まずその死骸の布片を取って巌の上に置く。で坊さんがこちらで太鼓をたたき鉦を鳴してお経を読みかけると、一人の男が大きな刀を持ってまずその死人の腹を断ち割る。そうして腸を出してしまう。それから首、両手、両足と順々に切落して皆別々にすると、その屍を取扱う多くの人達が、肉は肉、骨は骨で切放す。すると峰の上の鷲が降りて来て、その墓場の近所に集る。まず最初は太腿の肉とか何とか良い肉を出すと、沢山の鷲がやって来る。残った骨は大きな石を持って来て、非常な力を入れてその骨を叩き砕く。巌の上には穴が十ばかりあって、その穴の中に大勢の人が骨も頭骸骨も脳味噌も一緒に打込んで細く砕いた上に、麦焦しの粉を少し入れてゴタ混ぜにして団子を作ってやると烏はうまがって食べ、残るのは髪の毛だけとなる」(『西蔵旅行記』下50頁、明治37年博文館 文書は現代風に変えた)

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『西蔵旅行記』挿絵に着色